一円玉の恋
先輩が傘を持って、「さあ、行こう!」と雨に濡れないようにと、私の肩をぐいっと抱き寄せて、パフェが美味しいカフェ迄歩いて行く。

先輩が近い。ドキっとは最初したのに、山神さんの時みたいにバクバクして困るって程ではない。
普通に話してもいるし、先輩の雰囲気は落ち着くけど、山神さんに近づかれた時のあの微かな甘い心地いい匂いの方が落ち着く。
人と比べるのは失礼だけど、真希ちゃんとの話を反芻して、自分の気持ちの着地点を探そうとしてしまう。

先輩とは、小一時間ほど就活の話しなどを話して別れた。
いいアドバイスももらえたし、もちろん、美味しいパフェも奢ってもらった。

別れ際、

「翠ちゃん、就活、悩んでるんだった相談に乗るから、遠慮しないでもっとLINEして、いつも僕から送らないと返事が来ないのは、ちょっと寂しいよ。だから、お願いね。」

とポンッと頭に触れて去って行った。

優しい先輩だ。確かに先輩が彼氏だと、それはそれで心安らかに歩んでいけそうな気がする。
でも、心が向かない。
私には、先輩よりも山神さんよりも、あの夢の中で抱きしめてくれる人が一番それに当てはまるんじゃないかと結論付けて、家路を急いだ。

マンションの最寄り駅に着くと、もう雨はバケツをひっくり返したように降り、風も吹いている、傘をさしてもかなり濡れる。
マンションに着いた頃には、下着まで浸透していた。
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