一円玉の恋
向かった先は杏子さんのマンション。
事前に連絡は入れてある。
寝起きだったが、杏子さんは快く迎えてくれた。

「いつか、こうなると思ってたけど、やっぱり馬鹿よねーアイツ。散々忠告してあげたのにね。最後大暴走するんだもんね。三十にもなって成長しないヤツだわ。少しは反省させないとね。」

と、私が杏子さんの家に入るなり、そう言っていた。

部屋は客間を使わせてもらう事になった。
落ち着いたら、前に見学した部屋を貸してあげると、言ってくれた。
お金が必要なら、店でバイトもさせてくれるそうだ、お給料は山神崇から貰っていた額と同額を提示された。なんて、嬉しい話しだ。
だが、それは仕事内容と見合ってないのでプレッシャーに感じるからと、正規の賃金に落として頂いた。
いかに、山神崇から頂いていたお給料が破格だったか、よく分かる。
体差し出せと言われても仕方ない額だ。
絶対それは冗談でもダメな事だ。

山神崇は私がマンションを出た事を知るや否や血相を変えて杏子さんの家まで押しかけて来た。
「とりあえず、一回はちゃんと二人で話しなさいよ。変な事されたら、私がお巡りさんに突き出して上げるから。」と杏子さんに言われて、二人で話すことにした。
山神さんはかなり落ち込んでいる。
ソファに座っている私のすぐ側に来て、私の顔色を伺うように話す。

「翠ちゃん、戻ろう。酷い事をしたのは謝るから。ね。戻ろう。ごめん…頼むから、戻って欲しいんだ。」
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