一円玉の恋
「どうしたの?翠ちゃん。一緒に帰る?」と優しく山神さんが問いかける。
私は、首を横に振る。
「はっは。」と困ったように彼が笑った。
彼にしっかり抱きつきながら、私は自分の今言える思いを伝えた。

「山神さん、待っててもらえませんか?」

「ん?」と彼が不思議そうな声を上げる。

「私、多分山神さんが言うように、貴方の事が好きなんだと思います。
でも、正直まだよく分かって無いんです。自分の経験値が低く過ぎて、今巻き起こる感情に追いつけてないんです。
けど、京都で見た光景は目に焼き付いて離れなかった。悲しかった。嫌だった。泣きたかった。杏子さんの時はなにも感じなかったのに…。
この頃は山神さんが側に来るだけで、全身がバクバクします。昨日先輩に近付かれても、そんな状態にはならなかったです。
そして、こんな風に山神さんに抱きしめられると、心が落ち着きます。山神さんの匂いに包まれると安心するんです。とても居心地が良くて好きです。 ずっとこうされたいって望むくらい。すごく変なんです。私。今迄こんな風に男性に思ったことなんてなかった…。それが、好きって事になるのなら、私は山神さんが好きです。とても…。」

「ふっふ。」と山神さんが穏やかに笑ってる頭を撫でてくれる。
そして、一層しっかりと抱きしめてくれる。
ちょっと、苦しい…。
でも、すごく嬉しい。
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