カラダから、はじまる。

「まぁまぁ、今日はおめでたい日なんだから。
……諒志、この度はおめでとう」

専務が笑いながらそう言って、田中の肩をぽんっと叩いた。

黙っていると「シャープな切れ者」という感じなのだが、笑うと少年っぽい雰囲気になる人だ。
それは、息子にも受け継がれていた。

「ありがとうございます。本日はお忙しいところを皆さまにご足労いただき……」

「いやだわ、諒志くん、そんな堅苦しい挨拶」

専務の奥様が田中の言葉を遮る。
田中の母親と妹によく似た「かわいらしい」系の人だ。親戚なのだろうか?

「そうよ、諒志くん。わたしたちはあなたが生まれたときから知ってるのよ」

社長の奥様もおっしゃる。
こちらはおっとりとした正統派美人で、専務の奥様とは姉妹にもかかわらず、あまり似ていなかった。

「そうだよ。そもそも、君のお母さんの『あっちゃん』があさひ証券に入社したときに、君のお父さんが……」

社長が「昔話」を始める。
ノーブルな気品(あふ)れる物腰で、若かりし頃はさぞかし「王子さま」と(あが)められてもてはやされたことだろう。

「その前に、私と水島が入社して、おまえが清香(きよか)ちゃんに惚れて、私が紗香(さやか)に……」

専務が「補足」しだした。

「いやだぁ、真也(しんや)さんたらぁー」

専務の奥様である「紗香」が夫の腕をぱしりと(はた)く。

「そうよ、壮一郎(そういちろう)さん、やめてちょうだいな」

社長の奥様である「清香」も夫を(たしな)める。

でも、二人ともちっともイヤがっていないのが、だれの目にも明らかだ。
そういう点では彼女たちは「姉妹」だ。よく似ている。

……姉妹でそれぞれ違う(ひと)を好きになって結婚できたら、こんなふうに幸せでいられるんだなぁ。

わたしはしみじみと思いながら、スパークリングワインを口に含んだ。どちらかというと酸味が勝つ味のはずなのに、なぜか苦く感じる。


そして……その「幸せな昔話」は(とど)まることを知らず、ホテルの係員が新郎(田中)を呼びにくるまで延々と続いた。

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