カラダから、はじまる。

披露宴が賑々しく始まっても、新郎新婦ははるか前方にいてよく見えないし、職場のみんなも前の方のため、遠く離れた最後方にいるわたしはお酒でも呑まなきゃやってられない。

……まぁ、田中がぜーったいに無理だと拒否ったおかげで、キャンドルサービスがないのは助かったけど。

純白のベルラインのウェディングドレスからお色直しするのは、アプリコットオレンジのソフトマーメイドラインのドレスだと七海は言っていた。
膝下からたっぷりとチュールが広がったデザインだとのことだ。

そのドレスの七海が、しあわせいっぱいの満面の笑みで、田中とともにテーブルのキャンドルに点火して回る姿を、間近で見られるほどの馬力(H P)は今のわたしにはない。

このホテルの名物とかいう、某国の女王陛下が舌鼓をお打ちあそばされた伊勢海老のグラタンを完食する頃には、わたしはすでに瓶ビールを一人で三本空けたあとにグラスワインの白を二杯呑み干していた。

母の眼光鋭き目が、まっすぐ自分に注がれているのを「気配」で察知する。

……おとうさんなんか、わたしよりもずっと呑んでるじゃんっ⁉︎

だけど、その世にも怖ろしい母の目にはとても太刀打ちできないので、わたしは(のが)れるように隣の「田中家」のテーブルを見た。

すると、ご両親や妹の夫はビールを呑んでいたが、妹だけは果汁百パーセントのソフトドリンクを飲んでいるようだった。

この二月に結婚式を挙げたその妹夫婦も、このホテルを利用したそうだ。
ただ、弱冠三十歳で執行役員である経営企画本部長に就任した、創業者一族の血を引く「御曹司」の結婚式だけあって、披露宴会場は芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名が付いた一番大きくて広いバンケットルームだったそうだ。

そのとき、これまた名物というローストビーフを運んできたウェイターに、わたしは声をかけた。

「ねぇ、あの彼女が飲んでるのってオレンジ?」
「はい、さようでございます」
「じゃあ、赤ワインと一緒に、わたしにもちょうだい」
「かしこまりました」

ローストビーフをいただくとともに瞬く間に赤ワインを呑み干し、満を()して(?)飲んだオレンジジュースは、つぶつぶ入りの果汁百パーセントで味が濃く、とっても美味(おい)しかった。

また隣のテーブルを見ると、今度は彼女がマンゴージュースを飲んでいた。わたしはまた人を呼び、同じものを所望して持ってきてもらった。

……あぁ、これも甘くて美味しい。

さすが、一流の老舗ホテルの果汁百パーセントジュースである。味が半端なく濃厚だ。

またまた隣のテーブルを見ると、今度は柚子ジュースを飲んでいた。

マンゴージュースは美味しかったけれど、ちょっと口の中がねっとりしていた。
わたしはまたもや便乗して柚子ジュースを手に入れて飲んだ。

……あぁ、口の中がさっぱりさわやかだ。

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