触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
「おいおい、祝ってくれる気はあるんだろうな。声が死人のようだぞ」

 サイラスがからかうが、心なしかその声も張りがない。そしてフレッドはさらに張りのない声でひとこと告げただけだった。

「死人に口はない」
「お前それはちょっと意味がズレるぞ。ところで今日はいい話と悪い話と両方持ってきた。どちらから聞きたい?」

「いい話っていうのは、君たちの結婚のことじゃないのか?」
「いや、仕事の話だよ」
「つまらないな。どうせこれ以上悪い話はないんだ。悪い話から聞かせてくれ」

 サイラスは腕を組んで思案すると、身を乗り出した。

「いや、気が変わった。いい話から聞け」
「君から言い出したくせに何なんだ」

 サイラスが拾い上げた筆の先を見て顔をしかめる。

「フリークス卿の件だが、お前の指摘した通りだった」

 フレッドは表情を改めた。


 発端は、視察と称した監査の最終日にさかのぼる。
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