その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 オリヴィアの家の客間で、その年の領民からの納税額をつけた帳簿を繰る手が止まったのは、ある秋の日の記載がある頁だった。日付、納め、受け入れた税額に続いて記載されていたのは、天候に関する文言だ。

 フリークスの領地は半分以上が穀倉地帯である。したがって辺境伯家の主な収入は、領民から穀物の売り上げによって納められる税金と、国防のために国より支給される防衛費となる。納税額はその年の天候に左右されるため、天候の記載自体に不審なところはない。

 だがフレッドが引っかかりを覚えたのは、そこに「一週間雨が続く」という走り書きがあったからだ。

 記載のあった日は、彼がオリヴィアに領地を案内された日であった。この帳簿の日付が正しいならば、あの日は夕方までは晴れていたのだ。確かに夜は豪雨ではあったが、それも翌日には晴れ上がったのである。だからこそフレッドは愛馬に乗って王都の屋敷まで戻ることができたのだ。

 帳簿を精査すると、他にも天気に関して領民への聞き取り結果と食い違う箇所が見つかった。もはや誤記とは思えないほどの数であった。

 これが意味するところは何か。


 国に納められるべき税金の一部が、フリークスの懐に入っている。いわゆる、脱税疑惑である。
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