その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 オリヴィアが就寝前の茶を差し入れに来たのは、ちょうどその帳簿を見ていたときだったのだ。彼女にはとうてい言えることではなかった。

 金の流れを追った結果、フリークス卿が私兵の増強のために流用していることも判明した。いずれも約四年前から継続的に行われていた。

『コーンウェル公には駐屯地の軍備増強の必要性を訴えた。だが、リデリアとの関係は良好であり、増強する必要性を感じないと軍から却下されたのだ』

 ラッセル……オリヴィアの父親は、申し開きをするつもりはまったくないようだった。

『手をこまねいているうちに取り返しのつかないことになっては、一生悔やむだけだからな。そうでなくても一度は肝の冷える思いをしたのだ。軍を頼れない以上、自分で何とかするしかなかった』

 ただし、私兵を増強した目的だけは口を割らなかった。そして彼はフレッドに、婚約の解消を申し渡したのだ。

『こちらから申し出た結婚だが、なかったことにさせていただく。娘はグレアム公に引き受けていただくことになった。公爵家の力があれば、あれを口さがない連中から守ってくださるだろう』
『僕が彼女を守ります』
『君も家の事を考えたらどうだ。こうなった以上、君の御父上は娘との結婚をお認めにはならない。まして君は次男だ。守ることなどできまい』

 フレッドが食い下がっても、ラッセルは撤回しなかった。
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