触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
「うん。オリヴィア、……甘えてくれているの?」

 オリヴィアは答えの代わりに、そっと腕を彼の胸に回す。彼がどんな顔をしているのかはわからない。でも彼のまとう雰囲気がわずかにやわらいだ気がした。

「きみの御父上からこの縁談を取り下げられたときには、目の前が真っ暗になったよ」

 フレッドが、彼女が回した手の上から自分の手を重ねる。始めは彼女の反応を探るようにこわごわと、それから確かな力で包み込む。まるで放したら全て失ってしまうかのような切実さで。

「殿下が、フレッド様のことを親しげに呼んでおられたわ」
「聞いたのかい? 何度、殿下をいさめても直らなくて、頭を抱えている」
「偶然、聞こえてしまいました。宝石を二人で選ぶのだって」

 オリヴィアは彼に回した腕に力をこめる。

「だからきみは来てくれなかったのか」

 彼女は彼の背中に頭をつけたまま、うなずいた。彼のシャツに涙が吸いこまれる。

「フレッド様があんな風に呼ばれているなんて……嫌だったの」
「うん」
「殿下と二人で過ごしておられるのはもっと嫌で」
「うん」
「あなたの隣には、私がいたくて……私、自分がこんなに嫉妬深いだなんて知らなかったです」

 フレッドが振り返る。その目が驚愕に見開かれ、ゆっくりとゆるい弧を描く。

「きみの嫉妬なら喜んで受け止めるよ。ぜんぶ吐きだして、僕にさらせばいい。大体、僕の方が嫉妬深い。頼むから、一人で抱えて僕の前から逃げないでくれ」

 視界がみるみるうちにぼやける。オリヴィアは幼子のようにしゃくり上げた。
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