その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「上手く説明できませんが」

 フレッドは唇を湿らせる。

「彼女には、なにより大事なものがあり、守りたいものがあります。それは貴方たち家族であり、領民や領地であり、……フリークスの幸せです」

 彼女と散策したときのことが胸によぎる。

 彼女は領地の風景を誇らしげに語り、ここが好きだと目を細めた。領内のことに詳しく、有事の際には自らが領民の飛びこむ懐となる。弟が結婚して新たな女主人が屋敷にくるまで自分が守るのだと決意していた。

「そのフリークスの名に恥じないように、彼女は口さがない噂にも背を丸めずにいつも毅然と立っていました。あなたが捕まってからも、人前では涙を隠して笑っていた。一言も弱音も恨み言も吐かず、貴方たち家族や領民のことばかり考えていた」

 フレッドは「だから僕は」とラッセルの厳しい顔の向こうにオリヴィアを見ながら続ける。

「大事なものを守りたいという、その気持ちごと彼女を守ります」

 ラッセルは彼女を危険から守りはしたが、そうすることで結果的に彼女が家族を大事にする気持ちに傷をつけた。
 そして、そのときに彼女を守れなかったのは自分も同じだ。だからこそ。

「これからは、彼女が大事なものを守れないことを泣かないで済むように。その手で守っていけるように」
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