その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「殊勝なことだな」
「いえ、……失敗に学ぶというやつです」

 自分も偉そうなことは言えない。彼女が守り、ラッセルが守ってきたものの一つに、危うく深手を負わせるところだったのは他ならぬ自分だ。

 そんな自分の目の前で、彼女は自ら守っていたものを叩き壊したのだ。それも彼を傷つけたくないという理由で。まったく、彼女はフレッドが思うよりはるかに強い女性だった。


 守りたいなど、結局は傲慢かもしれないなとも思う。


 それでも、彼女が一人のときに泣いたことも、こらえた分を自分の前ですべて流したことも、自分は知っている。
 これ以上、一人のときに泣かないで欲しい。それでももしも泣くことがあるのなら、自分はそれを知らずに済ませたくはない。

 ラッセルがふっと笑った。

「そうか。……もう私の出番は終わったようだな」
「いえ、彼女の大事なものを守るために、貴方にはまだ協力してもらうことがあります」
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