触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 なんだか、自分が内側から作り変えられてしまったような気がする。

 オリヴィアは屋敷の自室で、鏡に映る自分の姿に頬をうっすらと染める。
 見えるところには大きな変化はない。耳のすぐ下の肌に小さく紅い痕をつけられただけ。それもそろそろ消えてしまいそうだ。

 それなのに、身のうちはこれまでの自分とまったく違う気がする。オリヴィアは、不意に喉の渇きを覚えてメイドを呼ぼうとし、思い直して部屋を出た。
 あんなに怖がっていたことが、フレッドのおかげで乗り越えられた。一生誰にも触れられたくないと思っていたのに、思ったよりも素直な心で、彼に触れられることを悦んだ。未婚のうちに純潔を捧げたことも、まったく後悔していない。

 公爵家の、白とオレンジを基調とした明るい廊下を歩く。
 霧が晴れたかのようだ。
 見ないようにしていたこと、見えなかったことが良く見える。不思議とこれからのことも怖くない。
 オリヴィアは階段まで来たところでふと手すりに手を置き、立ち止まった。

 王女のことはまだ解決していない上、彼女自身も別の相手と縁談を進めてしまっている。本当に彼と生きていけるのかはわからない。
 父親がこれからどうなるのか、家族がまた揃う日が来るのかもわからない。

 不確かなことばかりだけど、一つだけわかることがある。彼女は首筋にそっと指先を滑らせてから、階段を下りる。


 何があっても、もう目を逸らさない。
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