触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
「グレアム夫人、早く彼女を腕に抱きたいあまりに、気が急いてしまいました」

 開口一番、なんて恥ずかしいことを言うんだろう。
 一気にオリヴィアの顔に熱が昇り、彼をまともに見ることができなくなった。

「まあ、堂々とおっしゃるのね。まだお返事も差し上げていませんよ。でもそうね、今日は主人もいるからちょうど良いわ。これからのことを話しましょうか。主人を呼ぶから、オリヴィアはフレッド様を……そうね、温室《コンサバトリー》に案内して」

 笑ってきびすを返したマルヴェラの背を見送るのも待ち切れない様子で、フレッドが彼女の手を取り口づける。

「泣いてない?」

 フレッドに抱き寄せられ、間近で顔を覗きこまれる。からかうような口振りだ。

「やだ、フレッド様ったら。泣いていません。泣くようなことがないもの」

 ちゅ、と軽いリップ音を立てて口づけられる。オリヴィアの鼓動がとくんと大きく鳴る。
 まだ使用人が見ているのではないかとひやりとするも、フレッドはお構いなしの様子で、オリヴィアの髪や額にも口づけた。

 彼がこんなに大っぴらに触れてくる人だとは、知らなかった。オリヴィアは驚きとともにそう思ったけれど、その実フレッドがこれまでの反動で、たがが外れた状態になっていることなど知りようもない。

「どうかな。きみは淋しいと泣いてしまうだろう?」

 そんな、うさぎじゃあるまいし。
 そう心の中で反論したけれど、まったくないとも言い切れない自分が少し恥ずかしい。
 前は考えられないことだったのに。
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