触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 マルヴェラが澄ました顔でグレアム公の腕をさすった。

「うむ、そうだな」
「おば様の言う通りって?」

 彼女は首を傾げた。

「オリヴィアには話を進めていると言ったが、マルヴェラから待ったがかかったからね。縁談は彼から言われるまでもなく保留にしてあった」
「それでね、フレッド様を公爵家にお迎えしましょうって」

 思いがけない話に、オリヴィアはフレッドと顔を見合わせた。

「でも遠縁の方がこの家を継がないと、血筋が途絶えてしまうんじゃ」

 マルヴェラが彼女の疑問に笑みを浮かべた。

「あなた、忘れちゃった?」
「え?」
「私達も、遠縁同士だったのよ」

 マルヴェラが「ね、あなた?」と隣のグレアム公と笑いながら頷く。
 グレアム夫妻も遠縁……つまり、血の繋がりがある。ということは、オリヴィアもグレアム公と薄いとはいえ、血の繋がりがないわけではないのだ。

 はっとしてマルヴェラを見返す。

「だからね、オリヴィア。あなたは自分の望みの通りにすればいいの。ね?」

 不意に彼女の頬の上を長く骨張った指が滑った。

 その感触で、オリヴィアは自分が涙を流していたことに気づいた。気づいたとたんに、涙は次々にあふれて止まらなくなった。フレッドが苦笑してハンカチを取り出す。それはいつか彼女が贈った刺繍入りのものだった。
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