触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 涙を止めようというのなら、逆効果だ。

「あらあら、オリヴィア。これから殿下と戦おうという人が、泣いてちゃだめよ」

 彼女はたまらなくなってフレッドの肩に頭を預ける。ハーブの香りよりも安心する彼自身の香りを深く吸い込むと、また涙が伝った。

「きみはまったく……。僕はいつもきみの背中を追いかけている気分になるよ」

 彼がオリヴィアの髪を何度も撫でる。グレアム公がわざとらしい咳払いをして、オリヴィアは弾かれたように顔を離した。
 フレッドも苦笑して手を放すと、「一つ言っておくが」と切り出した。

「僕は何も犠牲にする気はないよ。何一つ、失わせない。きみからも」

 彼がぐるりと皆を見渡し、またオリヴィアをさとすように向き直る。

「これは僕が片付けるべき問題だ。だがあいにく僕はきみのように純粋な心を持ち合わせちゃいない。それに殿下も正面からお願いして通るような方ではないんだ。だから僕のやり方でいく」

 彼は何をする気なのだろう。まさか殿下を傷つけるようなことはしないだろうけれど、何か上手い策があるのだろうか。フレッドは自信たっぷりに、するりと彼女の頬を撫でる。

「きみはだから、僕の隣で見届けて」

 マルヴェラが思い出したように手つかずの紅茶に口をつけ、冷めた紅茶を淹れ直すようエマに指示した。先ほどまでのしかめ面もどこへやら、エマは満面の笑顔でいそいそと新しいお茶とクッキー──それもハーブ入りだ──をフレッドの前に差し出した。
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