触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 フレッドたちは、ヴィオラ殿下がフレッドに懇意にするのを、好意ではなくオリヴィアたちの仲を案じたことによるものであるとすり替えたのだ。

 そうすることで、王女のこれまでの態度に不自然さを感じさせることなく、かつ周りに対して噂は単なる勘違いだと思わせたのだった。
 しかも王女自身の名誉を損なわないよう配慮もされている。

 フレッドを巡る醜聞になりかねなかったところを、一度は引き離された二人が再び結びつくという美談にすり替え、かつ王女をその美談の立役者に仕立てる。ヴィオラ王女が常々フレッドのことを人前で「兄様」と呼んでいたのも、この話に信憑性を持たせていた。

 衆目監視のこの場で断じてしまえば、それを覆す発言は王女自身を貶めかねず、話に乗らざるをえなくなる。王女のプライドの高さと、日頃の王女らしくない振る舞いを逆手に取った、鮮やかな一手であった。

 下げた頭に、王女からの痛いほどの視線を感じる。

「頭を上げよ。そうであったか。これは誠に喜ばしいことである。良き伴侶を得て、宰相補佐官にはますますわが国の発展のために尽力してもらわねばな」
「もったいないお言葉、痛み入ります。これから妻と支え合いながら、精進いたします」
「ヴィオラ、お前からも祝ってやるが良い」

 オリヴィアは緊張に心臓が跳ねた。王女が今の話は狂言だと言えば、この計画は台無しだ。

 王女がどのような振る舞いをするのか、全ての参加者がその一挙一動を固唾を飲んで見守る。
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