触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
「……わたくしとしても、本当に喜ばしいことですわ。二人のことについて前から気に掛けておりました。宰相補佐官、良かったですわね」
「これも全て殿下のおかげです。殿下のご婚礼の際には自分も全力でサポートいたします」

 すでに国王が二人に祝福の言葉を授けた以上、王女は王家の体面を保つためにそうせざるをえないと観念したようだ。苦虫を嚙み潰したような表情をかすかに浮かべ、王女が二人を言祝《ことほ》ぐ。

 どこからともなく歓声が上がった。国王および王女自らが二人に祝福の言葉をかけたことにより、フレッドとの婚姻は公に認められたのだ。誰もこれを覆すことはできない。視界の端に、サイラスやリリアナが笑う姿が見えたけれど、オリヴィアは前を見続けた。

 圧倒的な質量で胸にせり上がる熱の塊は、制止するまもなく涙となって頬を滑り落ちる。

 それでも、オリヴィアはずっとヴィオラ王女から目を逸らさなかった。

 不意にフレッドが腕を外したかと思うと、腰を引き寄せられた。その手の温もりに、また胸が締めつけられる。油断すれば嗚咽を漏らしそうで、オリヴィアは唇をきゅっと噛んだ。

 グレアム夫妻がにこやかに見守る。グレアム公の姿が父親の姿と重なる。
 父親にも伝えたい。オリヴィアが望んで得た結果を、父親は喜んでくれるだろうか。

 割れんばかりの喝采のなか、あふれる涙をそのままに、彼女は王女に向かって、深く……深く、頭を下げた。
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