その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「やだ、フレッド様……フレッドったら」

 彼女はくすくすと笑った。

「父を返してくださって、ありがとうございます」
「……どうしてわかったの? まだなにも説明していないよ」

 とたんにフレッドがバツが悪そうにステップを踏む。

「でも、そういうことでしょう?」

 リリアナの話を聞き、父親の姿を見て彼女は確信したのだ。
 軍の代わりに動き、密輸組織の摘発に貢献したのは父親とその私兵なのだろう。フリークスの領地を隅々まで知り、迅速かつ的確に動けるのは彼らしかいない。

「兵たちは『旦那様と御嬢様のためなら』と張り切ってくれたよ。きみたちは領民たちだけじゃなくて、兵たちにも慕われているんだな」

 芝生の上でのダンスは、室内よりも心持ち大きく身体を動かす必要がある。フレッドのリードも伸びやかで大胆だ。ウェディングドレスのまばゆい白が、芝生のうえでいっそう眩しくひるがえる。

「そうだったんですね」
「だが御父上に爵位を返すことまではできなかった。アルディスに麻薬が蔓延するのを食い止めた功績により特赦で釈放、というので精一杯だった。力不足でごめん」

 オリヴィアは「いいえ」と笑って首を振る。父親はなんと思っているのかわからないけれど、オリヴィアにとって爵位はその人を表すものではない。

 大事なのは、その人がその人らしくいられるかどうか。笑顔でいるかどうか。
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