その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「出勤前にリリアナを補充するだろ? 朝が100とすると、昼には30くらいに減っている。それなのに業務はまだ半分も終わらない。それを残り30でやる辛さがわかるか? そして今はもう晩餐の時間だというのに、俺のなかのリリアナは3しかない! つまり瀕死の状態だ」

 再びソファに腰を下ろしてふんぞり返る親友を、フレッドは横目で流した。だが言いたいことは良くわかる。早く妻に会いたいのは自分も同じだ。

「それを言うなら、僕は朝屋敷を出た瞬間にほぼ0になる」
「朝の補充がないのか? いってきますのキスぐらいしろよ」
「しているさ、当たり前だろう。あれなしでは屋敷を出ることもできない。だが、……口づけだけでは済まなくならないか?」
「真顔で聞くなよフレッド。そこから先は酒が要る内容だぞ?」

 ニヤニヤと笑うサイラスも心当たりがあるようだ。フレッドは今朝のオリヴィアを思い返した。見送りに出た彼女は、色とりどりの小花を全面に散らした、ふんわりと裾の広がる淡いクリーム色のデイドレス姿だった。華美になりすぎず爽やかさを感じる、木々が伸びやかに葉を広げる初夏に相応しい装いだ。

 出会った頃は地味一辺倒だったのがずいぶん変化したと思うと、自然と口もとがゆるむ。ゆるく編んで片側に垂らした髪型も、隙を見せてくれているようだった。

 眠る彼女のあどけない表情もまた、フレッドの庇護欲を大いにそそる。目覚めた後も隣のオリヴィアを起こさずに、じっと見入ったままでいることもしばしばだった。
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