触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 その様子に申し訳なさが膨らむ。反射的に身体が動いてしまったけれど、彼を傷つけるつもりはなかったのだ。恐怖と安堵と、申し訳なさと……いろんなものがぐちゃぐちゃに混じって、涙は後から後から頬を伝う。

 フレッドが拳を握りこみ、それから彼女に尋ねる。

「触れてもいいかい?」


 答えは声にならず、うなずくことしかできなかった。

 遠慮がちに彼の腕が背に回って、膝立ちになった彼の胸にそっと抱き寄せられる。一瞬だけぴくりと肩が跳ねたけれど、すぐに強張りは解けた。

 フレッドが何度も彼女の背をゆっくりと撫でる。

「もう大丈夫だから」

 シトラスと彼自身の香りの混じった匂いに包まれ、オリヴィアはその腕の中でひとしきり泣いた。徐々に心が落ち着きを取り戻す。呼吸も少しずつ深くなった。

「……ここは?」
「舞踏会の控え室だよ。本当はすぐに屋敷へ連れて帰ってあげたかったんだけど」
「いえ、……フレッド様が来てくださったのですか? ありがとうございました」

 濡れたままの瞳で見つめると、彼がまた痛みをこらえるように眉を寄せる。オリヴィアは不意に打ち明けてしまいたい気分になった。

「実は、前にも似たようなことがあって。……そのときも、むせかえるような匂いがしたと思ったら地面に押さえつけられて」

 フレッドは驚かなかった。視線で先をうながされる。
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