触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 ひゅっと喉が鳴った。

 もしかして自分はもう穢《けが》されていて結婚するに値しないと思われたのではないだろうか。そう思うといてもたってもいられなくて、彼女は口を開いた。


「そのときも何もされなかったから、だから傷物では、ないです。本当に」
「そうじゃなくて」

 フレッドがその言葉をさえぎる。険しかった空色の目が揺らめいた。

「これからはきみのそばにいる」
「え? いえ、そんなお手間をかけるわけには」

 今日だけでなく、領地を散策したときにも迷惑をかけているのだ。「白い結婚」を提案しているのに、これ以上の負担になりたくない。むしろ早く賭けを終わらせなければならないほどなのに。
 フレッドの腕から抜けようとしたけれど、かえって抱きしめられる腕に力がこめられた。思いがけない仕草に、心臓がにわかに早鐘を打つ。

「きみは意地っ張りな上に、鈍い」

 吐息のような声だった。いつのまにか呼び方が「あなた」から「きみ」に替わっていた。
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