触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 眼差しも声もなんだか急に甘くなった気がする。そわそわと落ち着かない気分で、彼女はこくりと小さくうなずいた。

「ごめんなさい。愛人を置いていいと言ったのは私なのに、勝手に嫌な気分になってしまいました」
「いや。きみの鈍さが良くわかったよ。僕の気持ちだけじゃなくて」

 意味ありげな笑いは何か嬉しそうで、彼女はつい口を尖らせた。

「フレッド様はやっぱり人が悪いと思います」

 オリヴィアは彼の胸に手を突いて離れようとした。


「きみが好きだ。初めて会ったときから。……だからそばにいさせて」


 柔らかく降ってくる言葉に、オリヴィアは思わず手を止めた。

 目を見開く。手が行き場を失ってさまよう。

 嬉しいか、嬉しくないか、と聞かれれば嬉しいのだと思う。彼のことは今や誰よりも安心できる存在だ。

 だけど、それは彼とのあいだに何も起きないという前提があるからでもある。

 好意を伝えられても、返せるものがない。

 こんな状態で、応えることなどできない。好意も返せないのに、いつかその先を求められるのではないかと思うと、たまらなく怖い。

 まだ心がついていかない。
 知らないうちに身体を強張らせてしまったのだろう。フレッドが腕を放した。
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