触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 二階に上がり、以前運んだことのある彼女の部屋を軽くノックするが、応答がない。少しためらって、周囲に誰もいないことを確認してからそっとドアを開けた。

 深みのある茶色の家具と野草のような素朴な色調のファブリックで統一された部屋を見渡す。そのなかで、飾り棚の上の一角にだけは色があふれていた。

 額装された押し花だ。愛らしい野花から、艶やかな薔薇までさまざまな花がところせましと飾られている。
自身を着飾るのは苦手でも、彼女も本当は愛らしいものや綺麗なものが好きなのかもしれない。

 ふと見ると、以前ここに来たときにはなかったトルコキキョウがひときわ大きな額に飾られていた。フレッドは知らず口もとをほころばせた。

 彼女はソファに身を投げ出していた。左側の肘掛に腕を乗せ、そこに頭を置いている。眠っているようだ。

 フレッドは音を立てないよう隣に腰をかける。
 深紅のドレスの裾が、薔薇の花弁のように鮮やかにソファに広がっている。白くなめらかなうなじが眩しかった。ドレスの裾からは踵の高い靴を履いた華奢な足首が覗く。

 無防備で、たまらなく煽情的な姿だった。
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