課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 こぼれ出た言葉と一緒に、涙もひと滴落ちる。
 心の奥底に気付かない間に降り積もっていた何かが、次々と溢れ出るような感覚。

 「やっと、言ったな。」

 その声に目を遣ると、眠っていると思っていた課長が目を開けている。
 彼は慈しむような優しい瞳で私を見つめていた。

 「課長…起きて…」

 「ああ。腕の中でもぞもぞされると流石にな、」

 と笑って言う。

 「あ、あの…聞こえて…」

 「もちろん。」
 
 そう嬉しそうに言って、私の額に「ちゅっ」と音を立ててキスをした。

 「おはよう、美弥子。俺も美弥子が好きだ。」

 朝の挨拶一緒にとサラリと耳に入って来た言葉に目を剝く。

 「気付いたのは昨夜だったけどな。」

 そう続けた彼は少し照れくさそうにはにかんだ。

 「蓋をしていただけで、本当は結構前からお前のことが好きだったんだと思うよ。」

 「結構前から…?」

 「ああ、よくお前のことを見ていたからな。」

 彼の台詞を聞いて、自分にも思い当たることがあった。

 ああ、そうだわ。私もずっと課長を見ていた気がする。
 蓋をしていたのは私も同じなんだわ…。

 キラキラと眩しい朝陽がカーテンの間から降りそそぐ。
 
 課長の瞳を見て微笑みながら、口を開いた。

 「おはようございます。私もずっと前からあなたのことが好きでした。」

 目じりに溜まった涙がもうひと滴、言葉と同時にすべり落ちた。
  


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