無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
駿太郎はこの10日間、彩月に勧められて、仕事が終わってからの一時間程度、この運動公園のランニングコースに来ていた。

最初、三キロのウォーキングだけだったが、思った以上に足にきた。ただでさえデスクワークから立ち仕事に変わったばかりだったのだ。一日目は辛さしか感じなかった。

しかし、彩月と一緒に2日目、3日目と同じ道を歩く度、周りの景色や彩月の話に耳を傾ける余裕が出てきた。

全く汗をかかなかった駿太郎の体も、段々代謝が良くなったのか、結構な汗をかくようになっていった。

「もう足は痛くない?」

ライトアップされた夜の散歩道(およびランニングコース)。彩月の笑顔は崩れない。

「ああ、大分慣れてきた」

歩きだして4日目。彩月は駿太郎にランニングを促してきた。

「今日は一キロ走ってみようね」

彩月は決して無理強いはしない。駿太郎のペースに合わせようとしてくれる。

フルマラソン完走コース開催まで後6日。駿太郎は少しでも走れるようになっていたかった。店側の人間としては、少しでも"頼りない"と思わせたくはなかった。

随分欲が出てきたものである。

ゆっくりと、ほとんど歩くような速さで彩月は駿太郎をランニングへ誘導した。

一キロがとても長く感じた。息が上がる。

「そう、その調子。少しスピードダウンしようか?」

彩月は一キロ走ったところで歩くように促す。

「羽生くん、フォームがいいね。若いし体力と筋力がついてくればどんどん早くなるよ」

彩月は褒めることも忘れない。お世辞でも駿太郎は嬉しくなっていた。

それから一キロ歩いて、それをもう2セット繰り返してその日は終わった。

月がやけに優しく光っていて、頬をかすめる風が心地よかった。
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