無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「やだぁ、真由香もサンフランシスコに行くぅ」

高級日本料理店を出ると、彩月に抱きついた真由香が酔っぱらって彩月に絡んでいた。

「こら、真由香。俺だって抱きつきたいの我慢してるんだからいい加減にしないと怒るぞ」

翔一朗の言葉に、駿太郎が敵意をむき出しにして、真由香から彩月を奪い取り、腕の中にぎゅっと抱き締めた。

「もういいだろ。帰るぞ、彩月」

振り向きもせず、彩月の腕を引っ張ってぐんぐんと歩き出す駿太郎に引きずられながら

「今日はごちそうさまでした。後日、またお礼に伺います」

と彩月が羽生家の面々に頭を下げた。

「伊藤さん、よろしく頼むよ」

庄之助の声にペコリと頭を下げた彩月は、駿太郎の横に並ぶと心配そうに駿太郎を見上げた。

駿太郎は歩きながらも、彩月に目をやり、愛しそうに彩月の頭をぐいっと自分の胸に引き寄せて進む。

駿太郎の両親はその様子に驚きと安堵の表情を浮かべて

「本当によかった。ありがとう」

と二人を見送った。

下弦の月が闇夜を照らしている。真っ暗だった日常はいつしか駿太郎の心に真っ赤な炎の種を植えつけていった。

もう逃げることも避けることも目をつぶることもしない。

彩月の隣にいるポジションは誰にも譲らない。

どんな困難も乗り越えてみせる。彩月が隣にいれば何だってできる気がするから。

「一緒に頑張ろうね」

そうやって微笑む彩月のつむじにそっと駿太郎は口づけた。
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