一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
二人で小走りで私の家へ。
あんな、きれいとは言い難いアパートに彼を招き入れたなんてこと、今となっては信じられないくらいあり得ないことだったけれど、
あの時はまだ’何も’知らなかったんだから仕方がない。

「ゴメンね、散らかってるんだけど、上がってー。」

人一人立てるほどのスペースしか無い三和土に立ち尽くす彼に声をかけた。
あの時は、何を遠慮してるのかな?なんて思っていたけど
きっと彼は、あのアパートの狭さ、ボロさに驚愕していたんだと思う。

散らかっていると言ったのは、一応の社交辞令。
掃除と片付けはきちんとしていたつもりだった。
こじんまりとした2DKの家。
少しでも広く見せるために、2つの個室の引き戸は開け放したまま。
そのせいで玄関から家の中全体が見わたせてしまうので、いつも家の中は整えるように心がけている。

「ここに・・・家族で住んでるの?」

靴を脱いで、おそるおそる入って来た彼が遠慮がちに尋ねた。

「うん。うち、お父さんいないから、お母さんと二人暮らし。」
「そうだったんだ・・・。」

優しげな彼の瞳が、少し潤む。
きっと、母子家庭という私の境遇に思いを馳せているんだろう。

週末に図書館で会う。
お互いに勉強に専念するから、話をするのはランチの時と、帰り道だけ。
そんな短い時間でも、彼が穏やかで、
人のことを思いやることができる、優しい人だと知るには十分な時間だった。
泣き虫なんだ、って自分でも言っていた。

「寂しくないの?」
「大丈夫!もう10年以上こんな生活だから。
お母さん、仕事掛け持ちしてて留守の事も多いけど、慣れてるから平気。」

彼のやさしさは、こちらが恥ずかしくなってしまうくらい溢れ出ていて、
私はいつも、余計な言い訳をしたり、ついそっけない態度を取ってしまう。

「あ、見てわかると思うけど、うち乾燥機とかないから、
ドライヤー持ってくるね。」
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