恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「……待たせたな」
鳴鈴はごくりと唾を飲み込んだ。
飛龍は作法通り、棒で鳴鈴の顔にかかっていた綾絹(リョウケン)を取る。
(い、いよいよだわ……)
寝化粧を施した鳴鈴を軽々と抱き上げ、牀榻(ショウトウ)の上の赤い褥に横たえる飛龍。
「鳴鈴と呼んでもいいだろうか」
「ええ、もちろん」
返事をするのがやっとだった。声だけではない。全身が震えていた。
「鳴鈴。こうなってしまったからには、お前の夫として、俺は義務を果たすつもりでいる」
大きな手が、さらりと鳴鈴の髪を避け、頬を撫でた。無骨だが優しい手の感触に、心臓まで震える。
どのように口づけられるのか。そのあとはどうなるのか。
不安半分、期待半分で鳴鈴はまぶたを閉じた。だが──。
どさりと音がした。自分の体の横に何かが落下してきた。
びっくりして目を開けると、なんと……今から初夜を迎えるはずの相手が、自分の隣に寝転んでいた。
(……この体勢からどうやって……)
一応実家で挿絵入りの本を見せられ、母に初夜の一通りの流れを教えてもらったが、そこから外れた飛龍の行動に、鳴鈴は固まるしかない。