高桐先生はビターが嫌い。

後藤先生はあたしにそう話しながら尚も真剣な顔をする。

…けどここで、顔色を変えちゃいけない。

そう思って、



「…何が言いたいんですか、後藤先生」



そう言って余裕ぶって笑ってみたけど、次の瞬間後藤先生が言った。




「…夕飯」

「…?」

「最近、違うとこで食べてきてんだよね、陽太」

「…へ、へぇ。でも、それが」

「奈央ちゃんと、一緒に食べてるんじゃないかって思うんだ。俺は」

「!!」



いきなり、そう言われて。

真正面で視線がぶつかる。

そこで初めて、自分の顔色が変わってしまった。…気がした。



「…そんなこと」

「まぁどーせ、奈央ちゃんが抱えてる悩みのこととかで、それが関係してそうなってるんだろうとも思うんだけど、俺としては本当に気になるわけよ。二人の関係が」

「…っ、」

「わかってる?奈央ちゃん。アイツ教師なの。俺ね、奈央ちゃんのことも確かに大事だけど、陽太のことも心配だから」

「…、」

「……本当に“噂になるようなこと”だけは、もう少し控えて」



じゃなきゃマジで危なくなっちゃうかんな。

後藤先生はそう言うと、




「…あっ。っつか俺そろそろ職員室行かないと!じゃ、話はここまでね!」

「えっ…あ、」

「約束!いま話したことは、俺と奈央ちゃんの約束だから。守ってね、お願い」



そう言って、嵐のように、やがて空き教室を後にした。



「……約束、て」



だけど。

独りになったその直後。

あたしはさっきの後藤先生の言葉で、やっと、全てを把握した。



“本当に“噂になるようなこと”だけは、もう少し控えて”



……心配して、不安になったのは、後藤先生も同じで。

気づかなかった。全然。

そもそも、噂なんて広まっていなかった。



最初から、後藤先生のトラップだったんだ………。











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