一途な御曹司に愛されすぎてます
 ひたすら下を向いて必死に動揺を隠そうと努力している私の様子を見て、彼が楽しそうにクスリと笑った。

 いつの間にか全身に薄っすらと浮いた汗を、庭に吹く心地良い風が冷ましてくれる。視界一面の風に揺れる花々が、私たちを見て冷やかしているように感じた。

 いつもより確実に上昇している体温を自覚しながら、ふと庭の奥に目をやった。

「あの、階上さん。あの木立はどこに続いているんですか?」

 庭の奥は木立の入り口に続いていて、どうやら並木道が奥まで通っているようだ。

 高原でホテルが運営している牧場もあるようだし、そこに行けるんだろうか?

「あの木立はこの高原を整備する際に、わざと残したんです。このホテルのモデルになった城にちょうどあんな並木道があって、有名な逸話が残っていたものですから」

「逸話? どんなお話ですか?」

 興味を引かれた私は、レポートを書く手助けになるかもしれないと思って尋ねてみた。

 すると階上さんは、ちょっと考えるような表情で一瞬間を置いてから答えた。

「それはまた次の機会にお教えします。時期がありますので」

「時期?」

 私は小首を傾げた。

 どういう意味だろう? それに次の機会と言っても、私は明日のお昼にはここを発つのに。

 そう思ったら、極細の針で胸を突かれたような小さな痛みを感じた。

 そうだ。私は明日になったら帰らなければならないんだ……。
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