一途な御曹司に愛されすぎてます
 外国の宮殿の一室に迷い込んでしまった小動物のような心境で、美しい内装をグルリと見回した。

 旅行雑誌やサイトを眺めるたび、一度でいいから奇跡が起こってこんな部屋に泊まれないかなと思っていたけれど、これって奇跡なのか災難なのかわからない。

 本当に専務さんたらどうしてこんなことを?


 さっき彼が私に見せた、あの艶やかな表情を思い出したらまた胸が逸りだした。

 あれはなんだったんだろう。ただのモニター客に対する態度じゃないような気がするけれど、私の気のせいじゃない、よね?

 彼の体から仄かに感じたフレグランスの香りが残っている。それが部屋に飾られた生花の香りと混じり合った。

 清廉さと、艶やかさ。それは私が彼に感じた印象にとてもよく似ている。

 まるで私、この香りとこの部屋の中に囚われてしまったみたい。不本意なはずなのに、なんでこんなにドキドキしているの?

 私は自分の胸を支配する鼓動の大きさと熱さに、戸惑いを感じていた――……。




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