【短】残月、残滓、残照、残恋。そして、残愛…。
そして、そのまま半ば拉致される形で車に押し込まれた。


静かな車内。

ソウは、ジッという音と共に煙草に火を付けてから、私の方を向いてくる。



「彩雪…?」


「なによ?」


「なんで、そんなにつんつんしてんの?」


「……」



それは、お前のせいだろうよ。

とは、口が裂けても言うまい。

図に乗るだけだから…。



「さぁ?」


「あ、もしかして、オンナのコの…」



バシン!!



「あいてててて。ごめん、ごめーん。そんなに怒るなって」


「うら若き乙女の前で、あんたどういう神経してんの?!」


「…や、こんな?」


「はぁ…ウザ…」



私は、目の前で叩かれた場所を擦っているソウを見て、冷たく呟いた。



「お前ねぇ?偶にはにっこりして見せてよ?ファインダー越しだけじゃ、俺、ヤなんだけどー?」



こくり


小首を傾げて、私を見るソウは実に楽しそうだ。

いっつもこんな顔をして、私だけを見てりゃあ苦労はしないのに。



あ、だめだ。

なんか、無性に腹が立つ。



「やだねったら、やだね」


「ぷ。いつの演歌だっての」


「煩いよ、アホソウ。あほあほー!」


「はいはい。彩雪はそれでも可愛いし、俺は好きだよ」




ドキドキ




煩く高鳴る胸の音を抑えるようにして、私はプイッとそっぽを向いた。

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