白いオルフェ

京子も夜景を見ながら、「溶け込んで行きたいくらいの美しさ」
夜景を見ながらも、二人はひょっとしたら同じ事を考えていたのかもしれない。
一時間くらいいただろうか。
美智雄は、「ちょっとトイレに行ってくる」
美智雄はトイレの、曇り一つ無い大きな鏡に映った自分の顔を暫く見詰めるようにしてから、「美女と野獣か・・」と呟き、大きく溜息をついた。
席に戻ると、美智雄は京子とは違った方向を見つめて、「・・そろそろ引き上げようか」
京子は暫く美智雄の顔を見つめながら黙っていた。

　ホテルを出て並んで歩いた、何度もそうして歩いたことか。
夜道に京子のブーツの足音が響く。
地下道に差し掛かる頃、美智雄が話しかけた。
「京子さん・・」
京子は黙ったまま、ただ、美智雄が何を言うのかと足音が小さくなった。
美智雄が、京子の目を見ながら、はっきりと言った、「京子さんもう一度、結婚する気はない？」
京子の足が止まった。
「結婚・・」止まったまま京子は、美智雄が何を言おうとしているのかと考えた。
「若し、良かったらだが・・勿論・・話を聞いてくれる？」
京子はホテルを出てから、頭の中にいろんな事が浮かんでは消えるのを感じていた。
しかし、美智雄の言葉が突然胸に突き刺さった。
京子は遠くに感じられた美智雄の顔を、もう一度見つめ直した。
駅まではまだ長い地下道が横たわっている。
二人は一旦止まり、またゆっくりと歩きながら話を始めた。
美智雄が、「実は、僕の友人に独身の奴がいるんだが、いい奴なんだ・・」と京子に問いかけるように話した。そして、続けて、「会社でも周りから信頼されている、僕と同い年だから年は君より上だけれどね」
京子は黙っていた。
美智雄が再び足を止めて、コートのポケットに入れていた両手を出し首を傾げた、「もし・・京子さんが良かったら、一度だけでも会ってみてくれないかな、僕の事を少しでも信じてくれているのなら？」
京子はいきなりそんな事を言われてもという戸惑いの表情だったが、それでも美智雄の目をはっきりと見詰めて、「今、すぐにはお答えできませんから、考える時間を下さい」
実は美智雄は京子と親しくなってからだが、何故か彼の顔が浮かぶのを奇妙に感じていた。
彼（高杉一馬）と美智雄はは大学時代からの友人だ、大学には湯河原の自宅から通っていた。大手の自動車会社で車の部品を扱っていて、メカにも詳しい。