白いオルフェ

端正な顔立ちをしているが、不思議と浮いた話は聞かなかった。
勤めている会社でも女性から人気が合ったようだが結婚とまではいかなかったようだ。彼の性格は誰よりもキャンパスの4年間を一緒に過ごした美智雄が一番良く知っていた。美智雄は京子が暴力を受けて離婚した話を聞いた時にも、何故か優しい一馬の顔が浮かんだ。そして今日、真剣に京子の身を案じる自分に気が付きそれが愛だと感じた時、愛する人を本当に幸せにしてあげたいと思った。しかし、自分ではどうすることもできないと悩んだ、そんな時に数馬の事が浮かんだのだ。相性というものは本人同士で無いとわからないから、会わせてみるのが一番だと考えた。
美智雄は再びゆっくりと歩きながら京子に話をした、「僕に遠慮する事は全く無い、嫌ならこの話は聞かなかった事にすればいいだけのことだ」美智雄は京子に高杉一馬について大まかな説明をして、「来週、君に電話をするから」と京子の返事を聞いてから高杉に連絡することにした。京子を送ってメトロ丸の内線の改札口まで行った時、美智雄は会う度に送って来たこの場所が、何時もと違って感じられた。

　12月も中旬の週、美智雄は京子に電話をした。
京子の返事は、「一度会ってみます」とのことだった。
美智雄は京子に、「よく考えてだろうね？」と聞いた。
京子は、「眠れない日が続いた程考えた末の事だ」と答えた。
電話が切れた時、美智雄は、「これで、良かったんだ・・」と自分に言い聞かせるように呟いた。

京子と一馬の待ち合わせについては美智雄が、二人に何度か連絡を取り、手筈を整えた。
美智雄は、「24日の金曜日、午後7時に新宿のプリンスホテルの25階で待っています」と二人のスマホにメールを送った。レストランは丁度クリスマスと重なり、予約を取るのに苦労をしたが無事取れた。

　当日、美智雄は約束の時間よりも早めに行って予約席に座っていた。
此処は新宿の東口に在り、歓楽街の歌舞伎町に近いブラウン色のホテルで、西武新宿線に直結している。西口のホテルとはまた少し異なるが、夜景が美しい。
先に数馬が来た。美智雄と一馬は仲が良かったし、話題には事欠かなかった。京子が定刻に現れ、三人揃ったところで、美智雄が二人の紹介や馴れ初めなどを話した。
1時間も経った頃、美智雄は席を外した。
二人の会話が次第に小さくなっていった。