四つ脚の絵書き歌

4 ―少年の悲劇―



穴の淵から顔を覗かせたのは、大人ではなかった。
少女と犬だ。長い黒髪の少女1人と白い犬が1頭、困惑したかのようにこちらを見ている。

なかなか斬新な(男子高校生には刺激の強い)格好をした少女は、祥一の言葉に何か思うところがあったのか、今ではどこも見ていなかった。目線が明らかに宙を彷徨っている。
もう1度声をかけようか悩んだが、自分の身に置き換えてみれば、考え事をしている時に声をかけられるのはあまり嬉しい行為ではない。だから止めておこう。
祥一は自分でも驚くほど冷静だった。誰かに見つけてもらえた。これで助かる。家に帰れる。そう思うと、自然と落ち着いていられた。
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