ラヒの預言書

「えっ!」


突然の事で呆然と突っ立っていると、ぐいっと強く腕を引かれた。

訳が分からないまま、咄嗟に腕を振り払った。

自分のやった行動に膝が大きく震えたが、自分はこんな理不尽を変える為に神官見習いとなったのだ。

こんな横暴に屈する訳にはいかない。


「何の真似です!!お止めください!!いくらデルガとて、神に仕える我が身を神殿から引き離すなど、なんたる傲慢!神への冒涜です!!身籠った母の腹から無理矢理赤子を引き離す様なもの、決してあってはならぬ事です!!」

一気に捲し立てた後、益々膝が震えるのを感じた。


「無礼者っ!!」


斜め後ろに控えていた側近がすかさず厳しい声で言い放つと、いよいよソルの脚は力を失くして、その場に崩れ落ちた。


「この者の意見など、聞く必要はございません。さっさと連れてー」


スッと若い男が片手を上げ、従者の声を制すと、暫く黙って物珍しそうに眺め始めた。


「…そなたはまだ神官ではない、見習いであろう?その証拠に髪も落としていない。見習いであれば私の命令は通るはずだ。心配するな、悪いようにはせぬ。少し話があるのだ。私に着いて来て欲しい、ならぬか?」


デルガの様な身分の高い人に懇願されるなんて、初めての事で、一瞬言葉を失ってしまった。


(こんなデルガもいるのか?ガドランは特別変わってるけどこの人も……)


「あの者が必ずライズの許可も得る。そなたの立場を悪くする様な事はしない…頼む」


「分かりました...少しの間ならば…」


その言葉に、威圧的だった顔が崩れて、ほんの一瞬、笑みが見えた様な気がした。



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