出稼ぎ公女の就活事情。
 とはいえだ。
 話を聞いてもらうといっても正直何をどう言っていいのかよくわからない。

 わたしはまたしてもどうしよう、と思い悩む。
 だってわたしにもよくわからないのだ。

 リルの気持ちもわからないけれど、自分の気持ちもよくわからない。

--わたしはやっぱりまだリルのことが好きなんだよね?

 自分の気持ちなのに?マークがつく。

 リルが好きだと思って、一緒にこの国に来た。
 最後の思い出が欲しかったのだと思う。

 だけどその『好き』は今のリルにも当てはまるものなのか、それともそうじゃないから余計に辛いのか。

 わたしはただ身勝手にリルに昔のわたしの記憶の中の『リル』を押し付けて、それと違う今のリルに落ち込んでいるのだろうか。

 だとしたら本当に身勝手で我が儘な話だと思う。

 わたしはリルの意志に逆らって別の仕事を探している。しかもカルダさんからは報告がいっているはずだけど、わたし自身の口からは言っていない。

 そのクセにリルの態度に腹を立てたり気まずくなったり、悲しくなったり。

 ひねくれて、リルが帰らない訳を勝手にわたしに会いたくないんじゃないかとか考えたりして。

「わたしって、ダメダメだわ」

 はあ、とわたしは戻った自室のベッドへ突っ伏した。

 ミラさんは「何か温かい飲み物をお持ちしますね」と言って離れている。

 天蓋付きのベッドはフカフカで、やんわりとわたしの身体を受け止めてくれた。
 洗い立てのシーツからはキツすぎない程度に焚きしめた香の匂いがする。

--今日はさくらかしら。

 ふわりと匂い立つ春の香り。
 獣人の人たちはフランシスカの貴族たちが好むような香水は苦手なようだ。
 嗅覚が鋭いだけに香水の強い香りはキツく感じるらしい。

 代わりに淡い自然の香りを好む。
 そしてそれはわたしも同じ。

 香も強く焚きしめれば臭ささえ感じてしまうが、ほんの少し、微かに感じる匂いは心を落ち着かせてくれる。

 わたしは深く息を吸い込んで、肺を淡い香りで満たした。


「リディア様!お待たせ致しました!」 

 控えめなノックの音の後に、両手に盆を持ったミラさんが入ってくる。

「どうぞ料理長に言ってココアを入れてもらいましたの。身体が温まりますわよ」
「ありがとう」

 ココアとはずいぶん贅沢だ。
 コーヒーと同じくフランシスカではあまり馴染みのない飲み物。
 最近ではチョコレートとともに貿易品として入ってはきているようだけれど、どちらも砂糖を多く使うし、カカオも希少なためとてつもない贅沢品。

 貴族でも頻繁に口に出来るものではない。

「おいしい」

 甘くて、トロリとした感触がたまらない。
 一度だけ、義兄のところで飲ませてもらったことがあったけれど、それよりも舌触りが滑らかな気がする。

--ということはフランシスカの王族が飲むよりも質がいいってこと?

 気づいたその事実に驚く。

 リルは何者なのかしら?

 ここに来てから、いや、その前、船の豪華さからも何度となく感じてきた疑問。
 ルグランディリアの貴族であることは確か。
 そのことは初めてリルとあった子供の頃から知ってはいる。

 あとは騎士で、隊長と呼ばれる立場であること。
 
 
 





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