出稼ぎ公女の就活事情。
 小さなモンタさんの背中から見え隠れする両手。そこには縄はないけれど、代わりにと言おうか薄汚れた布がぞんざいに巻かれていた。

 その布の下から漏れ、滴り落ちているものが床にポタポタと垂れている。

「モンタさんっ!その手!?」

 わたしは思わず腰を浮かして駆け寄りかけ、びんと張った縄につんのめって無様にも床に這いつくばることになった。 

「……っ!」

 縛られた手首を縄がこすれるのと、強く引っ張られる形になったせいで縄が食い込むのと、その時に関節がおかしな風に曲がったのとが重なり結構な痛みが走る。

「い……たい」

 痛みに呻きながら身体をずらして縄の張りを緩めた。
 ズキズキと痛むし、少しずつ熱を持ち始めているようにも思うが、とりあえず骨には以上はなさそうだ。
 ただ関節には相当な負荷が掛かったであろうし後で腫れはするかもしれない。

「……やっちゃたわね」

 誰とも知れない人間に連れ去られた上に自分で自分の状態を悪くするとは。
 
「とにかく、まず落ち着かなくちゃ」

 声に出して、自分に言い聞かせる。

 わたしは立場的に誘拐だのなんだのが十二分にありうる。
 なのでこういった時の対応もある程度学んでいた。貧乏国で比較的平和で呑気な国民性のヴィルトルでは街でアンナと二人でふらふらしていても誘拐どころか絡まれたこともなかったけど。
 絡まれたり襲われたりは全部フランシスカへ出稼ぎに出てから実体験した。
 誘拐は……うん、見るからにお金のない地味女を誘拐までしようという人はいませんでした。まあその前にコッソリつけられていた護衛が撃退していたのかも知れないけど?

 油断は大敵、なんて言うけれど。

 わたしの場合は油断と過信のダブルパンチだと思う。

 フランシスカでは常に見えないところで護衛が付いていた。わたしのところまで来るのはわたしが自分で充分対処できる危険だけ。
 それだって対処ができないと判断されれば助けが入っていたはず。

 そのことには薄々気づいていたのに、わたしときたら少しばかり痴漢だのを撃退できていたのをいいことに自分を過信していた。

 過信していたから、ついて行くべきではない状況でモンタさんについて行った。
 過信し、油断していたから、フランシスカでは一度も外で外したことのなかった色付き眼鏡をつけずにいてしまった。


『その瞳の色』

 あの時ーーリルと同じ銀狼は確かにそう言っていた。

 あの時ーー猛々しく笑うように口角を歪めながらわたしにのしかかってきた獣。
 のしかかるなり人の姿になったその外見は、まるでリルをそのまま数十才老いさせたようで。

 逃げることも声を上げることも何もできないわたしの鳩尾に拳を落としたあの人は。

ーーわたしの瞳の色が『何を』示すものか、それを知っていると、いうこと。


 そしてわたしは、薄れていく意識の中でモンタさんに裏口から出てきた二人組が話しかけていたのも覚えている。

 その様子は、けして見知らぬ人間同士の姿には見えなかったのだ。




 

 






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