演っとけ! 劇団演劇部
 コートを挟んでBBチームと向かい合う。
「約束、覚えてんだろうな」
 今井が遠藤さんを横目にして、小声で僕に念を押してきた。
「こっちが負けたらな」
 ここで弱気な発言をするわけにいかない。
 僕は意味もなく不敵な笑みを浮かべた。
「両チーム、礼!」
 ゴリラーマンの掛け声に合わせて形だけの礼をしてから、全員が持ち場に着く。
(勝負だ!)
ついに(僕の)運命(ともいうべき遠藤さん)をかけた最後の戦いの火蓋がきって落とされたのだ。
 そして、試合開始から20分が経過した頃、1セット目が終了した。
 15―8でBBチームが先取。
 まずい。
 非常にまずい流れだ。
 というより、ぜんぜん歯が立っていない。
 他のチームよりも善戦をしていることは間違いないのだけど、勝ちが一向に見えてこない。
 僕の覚醒なんて日曜日だけ目覚めがいいダメサラリーマンのようなものだった。
「とにかく声を出してこう」
 桜井さんの言葉もいまいち元気がない。
 全員の息が上がっている。
 今井たちも汗はかいているものの、まだまだ余裕がありそうだ。
(このままじゃ負ける)
 何かないのか、奇跡の大逆転を起こす秘策は。何か忘れてはいないか、勝つために必要な何かを。
「ターーーーーーーーイムッ!!」
 コートチェンジをして第2セット目に入ろうとした、その時だった。
 試合に夢中で本当に忘れていた存在の声が体育館に轟いた。
「その試合、ちょっと待ったコールだっ!」
 ステージのカーテンが開くと、そこには相田先輩と、何故か洸河先輩までポーズを取って立っていた。
 おおっ、という無駄に沸く歓声。
 ステージから飛び降りた二人は、つかつかと僕らの前に来て
「待たせて悪かったな」
と微笑んだ。
 いや、待ってはいません。
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