クールな国王陛下は若奥様にご執心
(お父さま……。お姉さま)
 泣き叫ぶ姉の姿を思い出す。
 いつも毅然としている姉が、あれほど取り乱したのだ。せめてふたりにこれ以上心労をかけないように、努めて明るく振る舞うしかない。
 リーレは立ち上がり、窓を大きく開いた。
 春の風が部屋の中を駆け巡る。
 花の蕾が昨日の嵐にも耐えて、きっと咲いたのだろう。花の香りがここまで漂ってきた。
 だがリーレが見つめるのは、お気に入りの庭園ではなく、遠くに見えるこの国の景色だ。
 カリレア王国がリーレをどうするつもりなのかわからないが、そう簡単には戻れないだろう。愛する祖国の姿をこの目に焼き付けようと、リーレは涙を堪えながら、目の前の景色を見つめ続けた。

 この出来事は、朝のうちに王城中に知れ渡ってしまったのだろう。
 しばらくして身支度を手伝いに来た侍女は、リーレの顔を見るなり泣き出してしまった。まだ年若い少女で、リーレは日頃から目をかけていたのだ。
 その少女の肩を抱き締めながら、今までの礼を言う。
「私がいなくなっても困らないように、お姉さまによく頼んでおくからね」
 嫌がる子どものように、首を大きく横に振る彼女を優しく慰め、身支度を整えるといつものように父に会いに行く。
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