クールな国王陛下は若奥様にご執心
「いっそ切り落としてしまうか。自慢の美しい娘がそんな姿にされたら、あの王は嘆くだろうな」
 物騒な言葉を口にして、レイドロスは懐から何かを取り出す。
 目の前で、月の光を反射して煌く銀の刃。
 小ぶりだが切れ味のよさそうなナイフを目の前に突きつけられた瞬間、不思議なことに怯えていたリーレの気持ちが急に落ち着きを取り戻した。
 普通のリーレならば、そんなものを突きつけられたらさらに怯えただろう。
 それなのにどうして、こんなに冷静でいられるのか。
 きっとレイドロスの言葉に、優しい父や姉が嘆く姿を思い描いてしまったからかもしれない。もうこれ以上、ふたりを悲しませるわけにはいかない。
(大切な人達に比べたら……。こんなもの、何でもないわ)
 リーレは、手を伸ばしてカリレア国王が持っていたナイフを奪うと、それを自らの髪に当てた。腰まである長い髪を、肩を少し過ぎたくらいまで切り落とす。
 まさか、リーレがそんなことをするとは思わなかったのだろう。レイドロスは目を見開いたまま、止めることもなくただその様子を見つめていた。
 光が零れ落ちるように、金色の髪がリーレの細い身体を滑っていく。
(これでいいわ)
 自分の手で切り落としたのならば、父や姉にそこまで衝撃を与えることはないだろう。
 大切にしていた髪を切り落とすのは少しだけつらかったが、こうすればリーレ自身も、惨めな気持ちにならずにすむ。
< 23 / 38 >

この作品をシェア

pagetop