ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「副社長、危ないです。よして下さい!」
「奈々美、呼び方が違うぞ!」

さっきまでの猫なで声はどこへやら。二重人格かもしれないと疑いたくなるレベルだ。

「拓也副社長、足に障ります。瑞樹が落っこちたら怪我をします。クルクルはお止め下さい」

至極丁寧に注意をすると、「拓也だ。副社長は要らない」とダメ出しされた上で「瑞樹、お前の保護者は学習能力がない上に煩い」とようやく回転を止めた。

「そう思うだろ?」と同意を求められた瑞樹がキョトンと副社長を見上げ、それには答えず「おしまいっ」とクルクルの終了を告げると……。

「うわぁぁ」と副社長が歓喜の声を上げる。

「奈々美、今の聞いたか? 天使だ! 今の『おしまいっ』萌える!」

瑞樹が天使的に可愛ことは重々承知だが、漫画のような副社長の反応にはドン引きだ。

ここに住まいを移した日、環境の変化に瑞樹が順応出来るか心配だったが、取り越し苦労だった。

初めこそ大人の男性に免疫がない瑞樹は彼を警戒の目で見つめていたが、彼が初っぱなからこのテンションで猫可愛がりするものだから、案外簡単に懐柔されてしまった。

保育園から帰宅すると副社長の膝に直行するのが、ここ二日の瑞樹ブームだ。
だが、明日からはそうもいかない。彼が出勤するからだ。

「瑞樹ぃ、たぁ君、すっごく哀しい! 早く帰ってくるから待っててね」

ちなみに『たぁ君』とは副社長のことだ。瑞樹にそう呼ばせている。『奈々美も呼んでいいぞ』と言われたが、キッパリと断った。全く何を考えているのやらだ。
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