ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「美和ちゃん、お出でなすったぞ!」

辺りがザワザワとざわめき出す。
どうやら副社長とやらが到着したらしい。

おそらく向こうは私の顔など知らないだろうが……。

両親と兄は私の露出を極端に嫌った。顔を知られて犯罪に巻き込まれるのを懸念したからだが、今思えばメチャクチャ過保護だったと思う。

だから、私が新堂コンツェルンの末娘だとは夢にも思わないだろう。

それでも、万が一ということを考え、用心に用心を重ねて視察軍団に近付かないように行動した。逆に美和さんは視察軍団の行く先々に足を進めていた。

「山本!」と現場監督が私を呼ぶ。

「そのトランシーバーを今すぐ二階上の奴らに持っていってくれ」
「これ、五台ともですか?」

「そう」と監督が頷く。

丁度良かった。間もなく副社長がこの階に来る。速攻で「了解です!」と返事をして、早々にトランシーバーを抱え鉄の簡易階段を上る。

予定では、ビルは地上二十八階、地下三階と規模はそれほどでもないが、図面を見る限りかなり凝った建物になるみたいだ。

現在二十階までの骨組みが出来ている。

「これ預かってきました」

そこで作業を指示していた人――ヘルメットの赤いラインが三本だから、この階の主任だろう。その人にトランシーバーを渡すと――。

「なんだ、美和ちゃんじゃないのか」

そんなことを言う。いきなり失礼な人だ。
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