俺様外科医の極甘プロポーズ
「本当に変われるんですか?」
そう発言したのは今年で定年を迎える薬剤部の部長だった。
「僕は新卒からこの柏瀬病院にお世話になっていますが、新人が採用されても手放しで喜べなかった。もっといい職場があるよと言ってやりたくて仕方がなかったんです。壱也先生が着任したから確かに働きやすくはなりましたけれど、病院の体質が変わらなければ同じだ」
「変わります。そして私たちは皆さんの頑張りを正当に評価し還元します。今後の期待を込めて、冬季賞与は基本給の3.0倍になります」
会議室内に歓喜の声が沸き起こる。
「このままの調子でいけば、春にも臨時の手当てをつける予定です。そのためには皆さんの頑張りが必要不可欠だということを忘れないでいただきたい。それでは壱也先生お願いします」
事務長から壱也先生にマイクが渡される。私は瞬きもせず先生を見つめた。それはみんなも同じだったようで、さっきまでの盛り上がりが嘘のように静まった。先生は何を語るのだろう。
「いいたいことはすべて事務長が話してくれたので、私からは何もありません」
真顔でそう言ってのけるので、事務長も困り顔だ。それを察したのか、先生は「じゃあ一言だけ」とってマイクを握りなおした。
「純粋に僕は、よりよい医療を提供したい一心で仕事をしています。スタッフの皆さんはいろいろ思うところがあるとおもいますが、これからも一緒に頑張っていただけると助かります」
壱也先生は深々と頭をさげた。
するとどこからともなく拍手が沸き上がり、会議室は壱也先生を称賛する声であふれた。