俺様外科医の極甘プロポーズ
和食にしようと思った。栄養バランスの良い食事は、傷の治癒を助ける。体力をつけて、早く職場復帰してもらいたい。
鳥とごぼうの炊き込みご飯にレンコンのきんぴら。ほうれん草の胡麻和え。お味噌汁にはあさり。出汁もちゃんととる。

料理はもともと好きだ。共働きの両親の代わりに台所に立つことも多かった。

一人暮らしをするようになってからはほとんどしていなかったけれど、体は覚えていているものだ。包丁さばきだってお手の物。私はいいお嫁さんになれると思う。仕事だって安定しているし、子供を産んで休んでも職場復帰はしやすい。……今のところ、貰い手はないけれど。

「先生できました」

 テーブルに並べる。朝食みたいなメニューになってしまった。でも、味は保証する。

「おいしそうだ」

 先生もこう言ってくれている。

「いただきます」

 先生が口に運ぶのを見届けて、私は箸に手を伸ばす。ご飯は少し硬かったかもしれない。ほうれん草はゆで過ぎだ。みそ汁は薄い。思っていたものと違う。以前と同じように作ったはずなのに。

「すみません」

「突然どうした?」

「おいしくないですよね」

「そうか? 十分おいしいよ。なれないキッチンなのに、頑張って作ってくれてありがとう」

 おかしい。先生が優しい。貶してくれた方が張り合いがあるのに。嫌な奴でいてくれないと困るのに。

「おい。また……」

「泣いてません」

「どこがだよ。今回は俺、泣かせるようなこと言ってないと思うけど?」

「はい。言ってません。私が勝手に泣きました」

 今日の私は情緒不安定だ。これはすべて先生のせい。本当の先生を知れば知るほど、胸の奥が苦しくなる。

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