俺様外科医の極甘プロポーズ

こんなにも一日が長く感じたのは久しぶりだった。田口さんはそれとなく私を避けるし、みんなはどこかよそよそしい態度だ。仕事がしにくくて仕方がない。このまま溜息を吐き続けたら、しぼんで消えてしまうかもしれないと思った。

「ただいま帰りました」

 先生のマンションに帰ったのは夜の八時を過ぎたころだった。
緊急入院が三件も立て続いてしまったため残業になってしまったのだが、理由はほかにもある。壱也先生と顔を合わせたくなくて、夜勤者に引き継げばいいだけの無駄な作業までこなしてきた。

「お疲れ様。緊急入院が三件だって? 大変だったね」

 非常勤の先生たちは何かあるたびに壱也先生に連絡を入れているらしい。だから今日の夕方何があったのかも把握済みということだ。

「おそくなってすみません。急いで夕ご飯作りますね」

 私はカバンを床におおいて、キッチンに向かう。

「いやいい。イタリアンのデリバリーを注文しておいた。そろそろ届くころじゃないかな」

 言い終わらないうちにインターフォンが鳴った。私はオートロックを解除すると玄関で品物を受け取った。おしゃれで大きめの黒いボックスがふたつ。バジルとトマトのいい香りがする。

リビングのテーブルに並べて、冷蔵庫から冷たいお茶を出すとグラスに注いだ。

「さあ、食べよう」

「……はい」

 ふたを開けるとキッシュやパスタ、サーモンのマリネ、彩の野菜がたくさん詰め込まれていてとてもおいしそうだ。

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