俺様外科医の極甘プロポーズ
翌朝目覚めると、先生はすでに出勤していた。
「うそ、まだ六時だよ」
すっかりいつもの仕事モードに戻ってしまった先生に少し戸惑いを感じる。さすがは先生。最後の朝くらい、一緒に朝ご飯を食べてきちんと挨拶でもしようかと思っていたのにとんだ拍子抜けだ。
私は着替えを済ませるとスーツケースに自分の荷物を詰め込むと、病院へと向かう。
壱也先生が復帰した外科病棟は怖いほどに静かだった。
アンチ壱也のスタッフにとって先生の復帰は望ましいものではないのだ。予想していなかったわけではなかったけれど、あまりにもひどい。先生が話しかけても誰も返事をしないような状態では仕事にならないではないか。
「壱也先生。それ、私がやります」
私が申し出ると、「いいカッコしすぎ」と誰かが言った。そういうつもりはないのだけれど、みんなにとってそんなふうに映るのは仕方がないのかもしれない。
晴也先生の種まき作戦は成功したのだ。壱也先生が不在の間に嘘の噂は深く根を張った。もう、この病棟で壱也先生に従う看護師は存在しないのかもしれない。
「悪いね」
先生は申し訳なさそうに言うと、私にあれこれと指示を出す。私はそれを受けた。思った以上に至急対処しなければならない仕事が多くあった。手伝ってくれるスタッフはいない。投げ出すわけにはいかない。
これは先生のためではなく、患者さんのためだ。壱也先生を嫌うのは勝手だ。でも、それが患者さんの不利益につながってはいけない。
みんなにはどうしてそれがわからないんだろう。
「外科病棟のスタッフは仕事に私情を挟みすぎです。ちゃんと指導してください」
私は師長に言った。
「でも仕方がないじゃない」
けれど師長はそれ以上、何も言ってくれなかった。私はあっけにとられた。師長までもがこんな考えでいいわけがない。