俺様外科医の極甘プロポーズ

たまりかねた私は昼休みに看護部長室へと出向いた。これが外科病棟のスタッフとしての裏切り行為であることは百も承知だ。けれど、目をつむるなんて絶対にできない。

「部長。お時間いただいてもよろしいでしょうか?」

「どうしたの、いきなり」

「聞いていただきたいことがあるんです」

 私は現状を洗いざらいぶちまけた。

「壱也先生が嫌いでも、仕事をしないでいいことにはなりませんよね? これじゃあ、患者さんがかわいそうです」

「……そうね。花村さんの言うとおりだわ」

 部長は電話に手を伸ばす。

「師長を呼ぶわ。あなたは下がってもいいわよ」

「いえここにいさせてください」

 数分後、師長がやってきた。私が部長室にいることに驚いた様子だったが、すぐにどうして呼び出されたのか悟ったようだった。

「あなたは部下にどんな指導をしているのかしら?」

「……私は、その」

 口ごもりながら師長が私を見る。いや、睨みつけたといった方がいいだろう。私はここに残ったことを後悔し始める。すぐにでも逃げ出したかった。けれど、私がいなければ師長は自分の都合のいいように部長に話すかもしれない。それだけは避けたかった。

看護部長は師長に看護師としてのふるまいを考えなさいと言ってくれた。さすがに部長の言葉は胸に響いたようで、みんなが壱也先生を無視することだけはなくなった。けれど私は、“壱也先生に媚を売り、看護部長にまで告げ口する女”というレッテルを張られてしまった。

こうなることはわかっていた。わかってはいたけれど、こんなにもみんなの視線が冷くなるなんて思ってもみなかった。

みんなが汚いものを見るような目で私を見る。でも目を合わせようとはしてくれない。声をかけても答えてもくれない。まるで自分が透明人間になったような気がして、このまま消えてしまいたくなるようなそんな気持ちに襲われた。

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