そして、失恋をする
「おはよう、千春」
家を出て、学校に行く前に僕は千春が眠るお墓の前で小麦色の手を合わせて好きだった彼女に会っている。千春に会うことが、僕の日常だ。
「最近僕、千春に会ってるような気がするんだ。前にも話したけれど、〝千夏〟という君にそっくりな女性なんだ」
千春の墓石を見つめて、僕はうれしそうに言った。
「でも、一年前に見つかった癌が進行していて、後三日しか生きれないんだって。千春に似てるだろ」
「………」
僕がなにを話しかけても、彼女からの返事がないのはもう慣れた。しかし、それと同時にひどくこの自分の行動に虚しく感じるときが時折ある。
「千春は、僕のことが好きだったの?僕は、好きだった。今からこんなこと言っても、おそいことはわかってるけれどね」
千春と僕は、結ばれないことはわかっていた。けれど、この〝好きだった〟という言葉は彼女が生きていたときに伝えたかった。
夏の終わりを知らせるツクツクボウシの鳴き声が、まるで今の僕の心を表現してるようだった。