そして、失恋をする
「助けてもらったのに、お礼も言えないのか?」

女性に叩かれる前に、僕はすばやく目の前の彼女を両手で押した。彼女はアスファルトの上にしりもちをついて、顔をゆがめた。

「いたぁー、なにすんのよ!」

彼女はそう言って僕のことをにらみつけてくるが、それはこっちのセリフだと心の中で思った。

「あのなぁお前、信号わかってたか?赤だったんだぞ。僕が助けなかったら、さっきのバイクで轢かれて死んでたかもしれないんだぞ」

僕は、ありのままのことを彼女に説明した。

「べつに、助けてなんて誰も言ってないし。むしろ、私は死にたかったのに………」

彼女はさっきから同じ言葉ばっかり言ってるような気がした。

「なんで、死にたかったんだよ?」

「………」

僕の質問に、彼女からの返事はなかった。

「はぁ 」

僕は、ため息をこぼした。

お礼を言ってくれないうえに、頬まで殴られた。自らの命を捨てる覚悟で見ず知らずの女性を助けたというのに、彼女からのお礼のひとつないのは怒りを感じていた。しかし、彼女が死にたくて道路を飛び出したなら、それをじゃました僕を怒る気持ちもわかる。でも、なんで死にたいか教えてほしい。
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